坂本龍馬逸話 三
ふるまい柿
土佐勤王党結成後のある日のこと。党首武市半平太のところに坂本龍馬・中岡慎太郎・吉村寅太郎がたずねてきたので、妻富子は柿を振る舞った。
柿はまだヘタのあたりが渋かったが、吉村は勧められるままに手にとり、「私の家にも柿の木はありますが、とてもこの味には及びもしません」とにこやかに味わって食べた。
中岡は柿をちらっと見ると礼儀正しく「かたじけない」と言って、いくら勧めても柿には手を出そうとしなかった。
龍馬は無遠慮にお盆にのせてある手頃な柿を手に掴み、勝手に包丁で皮をむいて食べてしまった。平気でたらいあげるので、富子が鈍感で味もわからない人と思っていると、要領よく甘い部分だけを切りとって食べ、渋いところはポイと棄てていたという。
資治通鑑を読む
江戸剣術修行を終えて土佐に帰国した龍馬はもっぱら読書につとめ、暇をみつけては同志の門田為之助・大石弥太郎のもとを訪ね、国事について語り合っていた。
ある日、大石は門田から、「近頃、アザ(龍馬のあだ名)が読書を始めたそうだ」という話を聞き、怪しいと思ったので直接会って真偽を確かめることにした。
すると確かに龍馬は読書をしており、「時勢は僕に読書の必要性を感じさせた。だから僕はこれを読む」と大石に資治通鑑を示した。ところが、この資治通鑑は返り点・送り仮名のない白文であったので、大石は本当に読めているのか試そう考え、「ここで聞いているから音読してくれないか」と頼んだ。
龍馬は承知し大声を出して音読を始めたが、読みは間違いだらけで、訓点を無視して棒読みするだけであった。大石が驚いて、「君はそれで意味がわかるのか?」とたずねると、龍馬は、「物事の要点さえ掴めればそれでよい。わざわざ細かいことを気にする必要もあるまい」と平然と答えたという。
蘭学を学ぶ
ある時、龍馬は蘭学者のもとでオランダ政体論についての講義を聴講していた。講義の途中に突然龍馬が、「僕が思うに先生は原義を間違って教えています。もう一度、よく調べてみて下さい」と指摘した。
これに対して蘭学者は憤慨し、「私は先生である。どうして間違った訳を教えなければならないのか」と反論したが、龍馬は「それでは教科書の原義が道理を失っています」と言ってゆずらなかった。
そこで蘭学者は念のためもう一度教科書を読み直すと、龍馬の指摘するとおり翻訳に誤りがあることがわかり、「申し訳ない。私は訳を間違えた。確かにこれでは本来の意味が通らない」と謝罪した。
蘭学者は訳を聴いているだけで龍馬が原義を理解したことに大変驚いたという。
