坂本龍馬逸話 五
万国公法
ある日のこと。坂本龍馬は道で土佐勤王党の同志である檜垣清治と出会った。
檜垣が当時流行していた長大な差料を帯び誇らしげにしているのを見て、「無用の長物、緩急に応ずる能はざらん」と言って、龍馬は自分の帯びている短い差料を示した。
檜垣はなるほどと思い、さっそく長大な差料を止め、次に龍馬に会った時は短い差料を差していた。すると龍馬はピストルを懐より取り出し、空に一発放つと「是れ西洋の武器なり」と言った。
もはや刀剣の類は時代遅れと思った檜垣が次に龍馬に会うと、今度は懐から洋書を取り出し、「将来は武のみを以て立つべからず、学問が必要なり。僕、今や『万国公法』を読む。頗る面白し」と笑ったという。
著者は附言して「試みに龍馬の写真を見よ。其の両眼稍や近視らしき風あり。然れども其の精神に至りては遠視達観、人に先んじて時勢を洞察するの明あり」と。
主義の異同は敢て問はず
ある日のこと。坂本龍馬の創設した海援隊には志を持つ諸国の脱藩者たちが参加していた。ところが、小谷耕蔵は越前藩出身の青年で佐幕派であったため、しばしば隊士たちと激論を交わしていた。
これに不満が収まらない尊王派の隊士たちは、遂に小谷の除隊を隊長の龍馬に迫った。龍馬は、「海援隊は政治研究所にあらず、航海の実習を目的とするものなり。主義の異同は敢て問はず、隊中唯一人の佐幕の士を同化する能はずして、また何かを為さんや」と隊士たちを諭した。
それ以来、隊士たちは言い争いを止め、小谷は龍馬の人徳に心服したという。
貨幣の偽造
ある日のこと。坂本龍馬は後藤象二郎と長崎で財政のことについて話し合った。突然、龍馬が「もう、やろう!」と言ったので、後藤は意味が解らず「一体何をやるのか?」とたずねた。
すると龍馬は笑いながら「偽造、偽造」と耳うちした。これは土佐藩に貨幣偽造をやらせるという意味で、後藤は驚いて「それはひどい」と立ち上がり怒った。
それをみた竜馬は、「請ふ、一考せられよ。薩既に百万の新金貨を偽造せり。長亦た然り。之に土を加ふるも総計僅かに三百万。何ぞ驚くべけんや。思ふに大政奉還は未曾有の大業なり。此の大事を完成せる暁、僅々三百万の偽造貨幣を処分する能はずんば、豈に心細からずや」と答えたという。
